2010-01-01から1年間の記事一覧

音楽で読む『なんとなく、クリスタル』

『なんとなく、クリスタル』はブランド小説と揶揄されたそうだが、実際は音楽タイトルのほうが遥かに多く、洋楽カタログ小説といったほうが事実に近い。 しかし、登場するファッションブランドの多くは今もなお残っているが(定着した、というべきか)、音楽…

なぜならかつては島田雅彦派だったから

映画『ノルウェイの森』の番宣でメアリー、メアリー、と陰鬱な調子の歌が流れてて、ビートルズにあんな曲あったっけ? と一瞬考え込んでしまった。あれは勿論、CANのMary, Mary So Contraryであり、てっきり『ノルウェイの森』=ビートルズ垂れ流しだと思っ…

田中康夫『なんとなく、クリスタル』

小説には、二種類ある。あらすじを要約するべきものと、そうでないものと。学生でモデルをやってる由利は同じく学生でミュージシャンをやっている彼と同棲中。その彼、淳一はコンサートツアー中で、由利は雨の降る中、ひとり部屋で退屈をかこっている。友人…

世界が破れる磁場

同じ力関係の者同士が対立しているのであれば「中立」というのはあり得るかもしれない。しかし圧倒的に力の強い側と圧倒的に弱い側とがあったときに、中立というのは強い側に協力していることになる……”と。水俣病に限らず、また医学に限らず、さまざまな局面…

笙野頼子『レストレス・ドリーム』

桃木跳蛇が悪夢の世界スプラッタシティで、ゾンビを相手に世界を破壊するために戦う。笙野頼子は94年の松浦理英子との対談(『おカルトお毒味定食』)で、本作を代表作として墓石に刻んで欲しいといっているが、確かに、これは現在に至る笙野頼子の創作の出…

ケーゲルとクレンペラー

年末の風物詩であるベートーヴェンの第九交響曲だが、わたしはどうもあの曲の歌詞が苦手なのだった。 なんというか、むさいエリートのおっさん同士が裸で酒を飲んで、酔った弾みで調子のいいことばかりをいってるように聞こえる。 おお友よ、このような音で…

カート・ヴォネガット『タイタンの妖女』

ヴォネガットの長編第二作。太田光が「今までに出会った中で、最高の物語」と帯を寄せている。だが、ヴォネガットの作品中では必ずしも優れてはいない、と思う。 運命論というか、決定論的世界観はヴォネガットにはお馴染みなのだが、この作品ではそれが普遍…

キップ・ハンラハン『DESIRE DEVELOPS AN EDGE』

キップ・ハンラハンのソロ名義第二作。といっても前作の『COUP DE TETE』とほぼ同時期に制作されている。 今作の目玉はなんといってもヴォイスに迎えられたジャック・ブルースの歌声になる。彼の加入で歌謡性が獲得され、アルバムの性格が方向付けられたよう…

荒川弘『鋼の錬金術師』

正直、ここまでの人間讃歌で幕を引くとは思わなかったなあ。 タッカーとかキンブリーとかホムンクルスとかが出て来た時は、錬金術とその倫理、果ては人間性とは何か、を問うのかと思いきや、飽くまで健全な人間性の完全勝利ですよ。思わず岩波文庫版のゴーリ…

キップ・ハンラハン『Coup De Tête』

キップ・ハンラハンは充実期のピアソラの一連のスタジオ録音をプロデュースしたひと、として有名だろうか。 キップ・ハンラハンは、アイルランド人の父と、サマルカンド出身のユダヤ人の母との間に生まれ、ニューヨークのブロンクスで育った。自身が創設した…

ノンセクトとしての安彦良和

http://d.hatena.ne.jp/uedaryo/20101107/1289101879 しかしフセイン独裁のイラクをどうすればよかったのか、あるいは今、金家独裁の北朝鮮をどうすればいいのか? その答えを我々は明確に持っていない。安彦良和氏も持ってなかったのだろう、だから主人公の…

11月14日の日記

——こういうことは田中康夫の小説でならもっとうまくやってのけますね、とわたしは言った—— ——あなたは田中康夫の小説を読んだことがおありでしたっけ? 相手は世にもいんぎんな、しかし、どうだ、参ったかといわぬばかりの顔付きでさっとわたしに鉾先を向け…

「原文密着主義」と「ネタバレ」

されば、緒の言は、その然云フ本の意を考へんよりは、古人の用ひたる所を、よく考へて、云々の言は、云々の意に、用いたりといふことを、よく明らめ知るを、要とすべし 小説のレビューがつまらない本当の理由 - 誰が得するんだよこの書評 小説のレヴューがつ…

『KYOTO JAZZ MASSIVE』

このジャケットの女性、叶恭子にそっくりではございませんか。 恭子・ジャズ・マッシヴ。 基本的にただそれだけがいいたい。 「CITY FOLKLORE」 民族楽器を押し出した複雑なリズムの上に、高揚感のある管楽器やヴォーカルがひたすらに格好のいいフレーズを奏…

「進化遺伝学的世界観」補足

tikani_nemuru_Mさんから、NATROMさんのサイトの掲示板で木村資生の優生思想について議論したことがある、とご教示頂いたので(tikani_nemuru_Mさん、ありがとうございます)、消失した掲示板の断片でも残っていないかと探してみた。http://members.jcom.hom…

木村資生『生物進化を考える』

これはいい本だなあ。 学説史と進化史がコンパクトに纏められていて、その上で、突然変異と自然淘汰からなる進化の仕組み、中立説に基づいた集団遺伝学、分子進化と続く。各章が独立しているというより、相互に関連し合っているので、突然難しい話になった、…

田中康夫『ハッピー・エンディング』

今更、田中康夫の小説なんて、と正直思う。「ウッ、シーラカンス」なんて馬鹿にされるかもね。 けれども、聞いて欲しい。これが笙野頼子だと、読み取らなきゃいけないことが多いし、競争激しいし、ウェッという感じ。誤読で馬鹿さらしちゃうに違いなくて恐い…

笙野頼子『母の発達』

ちがうわ。あのな、おかあさんな、まず、お母さんらしいおかあさんを、センメツすんのや。それからあるべきお母さん白書をソウカツするのや、それでな、もともとからあったお母さんを全部カイタイするのや。P69~70 これは史上最も魅力的に描かれたお母さんで…