2011-01-01から1年間の記事一覧

「事実」はいかに書かれるべきか

ケースワーカーと呼ばれる人々 ニッポン貧困最前線 (文春文庫)作者: 久田恵出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1999/03/10メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 113回この商品を含むブログ (17件) を見るケースワーカーという、戦後の生活保護行政の現場を支え…

佐藤亜紀『メッテルニヒ氏の仕事』第一部

――メッテルニヒは始終嘘を吐くが、滅多に人を騙さない。私は滅多に嘘は吐かないが、人は騙す。 佐藤亜紀『陽気な黙示録』ちくま文庫版P305 繊細極まりない語り口の亡命貴族が語り手の『荒地』を雑誌掲載時に読み終わった時、ああ、こういう理性的で常に正気…

笙野頼子『幽界森娘異聞』

森娘。森ガールのことではない。 森茉莉の書き残した小説エッセイ書簡を元に、森娘というひとりの人物を描き出す。 偉い偉い明治の文豪を父に持つ森娘だが、森茉莉のことではない。森娘が森茉莉そのものではないことは、作中で繰り返し語り手が主張すること…

キップ・ハンラハン『Vertical's Currency』

『COUP DE TETE』、『Desire Develops an Edge』に続くキップ・ハンラハンのソロ名義作品の第三弾。 このアルバムを制作するに先立って、キップ・ハンラハンは「ソウル・バラードをたっぷりぶち込んで俺たちなりの“スモーキー・ロビンソン”風アルバムにして…

笙野頼子『だいにっほん、ろりりべしんでけ録』

その時、作者は、とここまでで二回書いた。第一部と第二部の終わりでである。 というエピグラフ風の書き出しから、三部作の最終巻は幕を開ける。 その第一部と第二部の終わりにはこのように記されている。 その時笙野頼子は、じゃなくって作者は。 自分の言…

笙野頼子『だいにっほん、ろんちくおげれつ記』

前作の『だいにっほん、おんたこめいわく史』で首つり自殺した埴輪木綿助の死霊は、妹を探し求めていた。その妹であるいぶきは、職員として面接を受けに行った火星人遊郭でなんらかの形で殺されており、兄と同じく死者として蘇っている。まことにおんたこの…

笙野頼子『だいにっほん、おんたこめいわく史』

「だいにっほん」三部作と称される作品の第一作。 「おんたこ」という、明治に始まる近代の精神が、新自由主義を信奉する左翼とオタクの手によって徹底的に押し進められ席巻している近未来の日本が舞台である。 「おんたこ」とは、例えばこのように説明され…

笙野頼子『硝子生命論』

『硝子生命論』は、『水晶内制度』の前作に位置すると看做されている。『水晶内制度』の中で『硝子生命論』を思わせる小説についての言及があり、建国者に大きな影響を与えた聖典として語られるからだ。『硝子生命論』で示される新国家のヴィジョンも、ウラ…

佐藤亜紀『醜聞の作法』

すぐには読まない。 まずは、ぱらぱら捲る。 第一信から第十八信まである。 おお、これは書簡形式であるな。『危険な関係』あたりのパロディかな。 覚え書き、とはなんであろうか。これが第四まである。 そして冒頭から邪悪な語り口。警戒して正解であった。…

アラン・ロブ=グリエ『快楽の館』

近所の品揃えの悪い無個性な郊外型書店で『快楽の館』の文庫本を見掛けて腰を抜かした。その隣にはル・クレジオの『大洪水』が並んでいる。ヌーヴォー・ロマンなんて忘れ去られたもの、とされた頃に小説を熱心に読んでいた人間からすればこれは大事件である…