世界が破れる磁場

同じ力関係の者同士が対立しているのであれば「中立」というのはあり得るかもしれない。しかし圧倒的に力の強い側と圧倒的に弱い側とがあったときに、中立というのは強い側に協力していることになる……”と。水俣病に限らず、また医学に限らず、さまざまな局面に通じることばだろう。
「中立」について - apesnotmonkeysの日記

「たとえば、好きでもない王子に「王子様、愛してます」と言うというのが、王子様に対する侮辱の言葉になるか、あるいはすごく卑屈な言葉になるかというのは、その磁場の問題じゃないですか。」という「磁場の問題」とは、こういった、権力関係の問題でもあるだろう。
そして、「正確なテンポを刻むドラムの上から言えば、あらゆる言葉が恐ろしい効果を持ってしまう」とは、裏を返せば「歪んだテンポを刻むドラムの上から言えば、あらゆる言葉が歪んだ効果を持ってしまう」ことに他ならない。
ヘイトスピーチの、腐臭を放つようなクリシェが命を脅かすような力を持ち得るのは、背景にある歪んだテンポ=権力がそうさせているのであって、その言葉自体が何かしらの特別な力を持っているわけではないと思う。それくらい、差別主義者の口から出る言葉は無惨だ。

マイノリティへの差別と表現の自由 - Togetter

金明秀さんのこの一連のツイートは、「言語国家と「私」の戦争」を理解する上で、非常に重要なものだと思う。
『レストレス・ドリーム』が発表されたのは1994年だが、着想はそこから八年遡るという。笙野頼子のその間の問題意識が、今なお、こうしてアクチュアリティを持つのを、「作家の先見性」としてのみ消費するべきではないだろう(そして笙野頼子を語る際には常にその誘惑がある)。
前衛作家であるからこそ、我々は笙野頼子の影を踏むことしか出来ないには違いない。だが、笙野頼子が輝かしい受賞歴とは裏腹に、不当に無視されたり黙殺されているとすれば、それはその前衛性故ではあるまい。