2012-01-01から1年間の記事一覧

佐藤亜紀『メッテルニヒ氏の仕事』第四部

いよいよウィーン会議である。 ウィーンにはパリ条約締結八箇国はもとより、無数の関係者が集まった。 人口二十五万人の都市に、九月だけで一万六千人が到着しつつある。ホーフブルクには賓客として皇帝一人、皇后一人、国王四人、女王一人、皇位継承者二人…

佐藤亜紀『メッテルニヒ氏の仕事』第三部

メッテルニヒには有名な回想録がある。 この回想録という形式はヨーロッパ文化圏ではやや特殊な位置にあり、伝記(日本でいう歴史物のビジネス書にあたるそうな)に飽き足らないビジネスパーソンが、歴史的な業績を残した当事者が語る声に触れ、人生や仕事の…

佐藤亜紀『金の仔牛』最終回

第三回目の前回で大体半分を過ぎたくらいかな、と見当をつけていたら今回でいよいよ最終回。 前回の終わりで、ニコルはカトルメールに、250株を、相場が100下がる度に買いと売りを同時にやることを指示される。すると250株はそのままに、現金が残る。今回も…

佐藤亜紀『金の仔牛』第三回

――ひとつ、訊いていい? ――何だね。 ――それが何かあなたの役に立つの。 ――勿論だとも。 ――どんな。 ――ああいう奴の首には縄を付けておかないと引き回せないからな。 ニコルは、何だそうか、と言わんばかりに頷く。――だったら安心。 ――どうして。 ――あなたを…

佐藤亜紀『金の仔牛』第二回

『メッテルニヒ氏の仕事』には、第一部冒頭で、「これから私が語ろうという人物である」と、「私」という語り手が想定されていることがわかる。この語り手はヨーロッパ半島を俯瞰してみせるパースペクティヴを提示し、状況についての最低限の解説や論評を加…

佐藤亜紀『メッテルニヒ氏の仕事』第二部

今回は前回からの続きとなる第四章の「タレイランの学校」がタレイランの失脚で終わるのを皮切りに、1809年のアスペルン及びワグラムの戦いから1813年のドレスデン、ライプツィヒの戦いの直前まで、つまりナポレオンの帝国が絶頂期から凋落の一途を辿る過程…

佐藤亜紀『金の仔牛』新連載

『メッテルニヒ氏の仕事』の連載だけで喜んでいたら、まさか平行して連載される作品が他にも出るとは思わなかった。かつてこんなことがあっただろうか。ちょっと記憶にない。至福。 『メッテルニヒ氏の仕事』と同じく、歴史を題材にし、地理も時代も近接して…

コンラード・ジェルジュ『ケースワーカー』

昨年末、ケースワーカーについて調べていたらこのタイトルのお陰で知ることが出来た。 知っているひとからすればかなりの知名度のある作家、らしいのだが、現在の時点で邦訳されているのは本書のみでそれも絶版(ではなかったようです。入手困難なだけみたい…